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book&cinema手帖

本と映画の感想。
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『三月』大島真寿美

book三月

短大時代の友人ノンから電話を受け取った領子。
話は要領を得ず、18年も前に亡くなった共通の友人、森川君の夢を見たのだと言うノン。
そして同窓会の話が話題にのぼるが、話の流れで領子のはノンの住む東北地方へ
遊びに行く計画をたてる。
そしてその計画と森川君の話は、同じく仲のよかった明子、花、穂乃香へとつながってゆく。

短大時代、二十歳の頃と言えば、恋に学校に友情に明け暮れていて
自分たちが世界の中心にいるように思っていた気がする。
そんな頃から20年もたてば、自分自身はもちろん、周りの環境も大きく変わり。
まるで自分だけが取り残されて、友人たちは陽の当たる道を歩いているように
見えるのかもしれない。

ここに出てくる女性たちも、みなそれぞれに荷物を抱えていて。
それは恋人もできず、仕事もなく、ただ犬と暮らす孤独だったり
いっしょに暮らす、前妻の娘との不仲だったり
遠い昔の、将来を約束した恋人との別れだったり
夫に話せないでいる、元彼が亡くなった経緯だったり
信用していた真面目ひとすじだった夫の裏切りだったり。

そしてそんな苦くて悲しい現実を分かち合える友達。
私もつい日常に流されて疎遠になっていた学生時代の友人いて
なんだか自分もそのノンたちの一員になったような気がして。

「三月」というタイトルは、そんな彼女たちの卒業の意味合いがあると踏んでいましたが
まったく違う展開が待っていました。
さらっと軽く読めるけれど、女性には寄り添って共感できる部分が多い作品でした。

■目次■
・モモといっしょ
・不惑の窓辺
・花の影
・結晶
・三月
・遠くの涙

三月/大島真寿美 232P
2013年9月発行
お気に入り度:★★★☆☆
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『ジーキル博士とハイド氏』ロバート・ルイス・スティーヴンスン

「The Strange Case of Dr Jekyll And Mr Hyde」
bookジーキル博士とハイド氏


恐らく小学生くらいのときに、図書館の棚などで手に取って一度は読んだことがあるこの作品。
そしてあまりにも有名で衝撃的なそのストーリーに、かえって今までちゃんと読む機会が
なかったと思われる、いわゆる「ジキルとハイド」。

ジーキル博士とハイド氏。
この二人がどういう人間で、どういう関係か。
もう世間的にはネタバレもいいところだけど、一応伏せて書くけれど
要するにジーキル博士は人望も厚く、学問を究め、毎晩「書斎でランプの芯を切りそろえて」
いるような、温厚篤実な紳士。
一方、ハイド氏は醜悪な外見に加え、邪悪で残虐な悪のエネルギーに満ちた、
悪魔のようなならず者。
博士の周囲の人や、街の人たちはこの二人の出現に惑わされ、恐れおののくのです。

前半、ハイド氏の奇行の描写は鬼気迫るものがあるのですが、
最終章のジーキル博士の失踪と残された陳述書の中身を読むと
人間の弱さや悲しみがひたひたと押し寄せてくるのです。

あるサイトでこの作家を読むきっかけをいただいたのですが
大人になってから読んだことに意味があるのだろうと思います。
きっと子どもの頃はただ怖いという感想しか持てないことでしょう。
恐怖の裏に隠れた悲しみがわかるのは大人ということなのかもしれません。

ジーキル博士とハイド氏/R.L.スティーブンスン  128P
1994年11月16日発行
お気に入り度:★★★☆☆

<あらすじ>この本が初版だからでしょうか?
あろうことか表紙にあらすじと言う名のネタバレ全開・・・
写真にぼかしを入れてみました。笑

街中で少女を踏みつけ、平然としている凶悪な男ハイド。彼は高潔な紳士として名高いジーキル博士の家に出入りするようになった。二人にどんな関係が?弁護士アタスンは好奇心から調査を開始するが、そんな折、ついにハイドによる殺人事件が引き起こされる。(「BOOK」データベースより)
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『龍神の雨』道尾秀介

book龍神の雨

1章ごとに、蓮と楓、辰也と圭介のそれぞれの兄弟(兄妹)の物語が交互に綴られます。
どちらの子どもたちも幼い頃に母を亡くした悲しい記憶を持ち、
血のつながらない父、そして母と暮らしているのです。
それぞれが母への思い、そしてきょうだいへの思いにあふれていて
ふつうならそれは微笑ましい家族愛という言葉でかたづけられるのだろうけど
ここではその愛がゆえに悲しい事件へと発展していきます。

前回読んだ「カラスの親指」が『明』の道尾さんだとすれば
これは『暗』のほうの道尾さん。
雨というモチーフとともに、暗く冷え冷えとした思いが沈殿していきます。
なんとなく東野圭吾のある作品を連想させます。

龍神の雨/道尾秀介  308P
2009年5月発行
お気に入り度:★★★☆☆2010年(平成22年)第31回吉川英治文学新人賞候補
2010年(平成22年)第12回大藪春彦賞受賞

<あらすじ>添木田蓮と楓は事故で母を失い、継父と三人で暮らしている。溝田辰也と圭介の兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母とささやかな生活を送る。蓮は継父の殺害計画を立てた。あの男は、妹を酷い目に合わせたから。――そして、死は訪れた。降り続く雨が、四人の運命を浸してゆく。彼らのもとに暖かな光が射す日は到来するのか? あなたの胸に永劫に刻まれるミステリ。
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『コーヒーカップ4杯分の小さな物語』佐藤嗣麻子他

なにかひとつをテーマにした短編小説やエッセイを読むのってわりと好き。
今回のテーマは「コーヒー」。
bookコーヒーカップ4杯分の小さな物語

コーヒーカップ4杯分の、とありますが1杯飲むあいだに読めちゃう軽い短編集。
どのお話しにもコーヒーが脇役で登場します。
ちょっとミステリー風のお話もあって、中には展開が読めてしまったものもあったけど
まあ、重い長編小説を読んだあとの口直し的なかんじ。

ところで巻末の著者紹介の欄がなにげに面白かった。
4人それぞれのコーヒー談が載っていて、どんなコーヒーを好んで飲んでいるとか
朝晩のコーヒータイムはストレス解放だとか、座右の銘は「人間は喫茶する動物だ」とか
旅に出ると古い喫茶店を探すとか。
そこ、地味に楽しめました。笑

■収録■
「ストレンジャー・イン・パラダイス」佐藤嗣麻子
   両親を亡くし、寄り添って暮らす、画家の兄と古本屋店員の弟。
   美しい娘に恋をし、いいところを見せたい弟は小さな嘘をつく。そして事件が起こる。
   絵を描けなくなった兄のために、弟はコーヒーの木の種を求めて旅に出る・・・。
「すみれの珈琲、れんげのゼリー」川口葉子
   高層ビルの谷間の路地で老姉妹が営む喫茶店。姉のスミレさんが淹れるほろにがコーヒー。
   妹のレンゲさんが作る果物のゼリー。時が止まったような店に流れる静かな時間。
「モイーズ・モナムール・・・・モカマタリの誘惑」青目海
   パリのアパートで愛し合う二人。彼が淹れてくれたネルドリップのコーヒー。
   そして突然彼女の前から消えた彼・・・。   
「雨の日はキリマンジャロ」柚木恵
   週に3回更新する麻紀のブログにコメントを寄せるアキラという男性。
   ブログを通して好きなコーヒーの話、音楽の話、そして麻紀の仕事の絵付けの話をする。
   あるとき彼女の絵を気に入ってくれた客から特別な注文が入る。

コーヒーカップ4杯分の小さな物語/佐藤嗣麻子他  127P
2006年10月発行
お気に入り度:★★★☆☆
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『ガリヴァーの帽子』吉田篤弘

前から読みたいと思っていた吉田さん。
図書館にたまたま新作があったので借りました。
bookガリヴァーの帽子2

ひとことで言い表わすのはすごくむずかしいな・・・
8つの掌編とあとがきから成るのですが、どれも雰囲気が違っていて。
まるで泉の水が湧き出るようにあふれてくる言葉遊びのようで
自分がどの地点にいるのか見失ってしまうような気がします。

私が好きだったのは、ちょっぴりミステリー風の「イヤリング」と
じんわり温かい気持ちになれる「ゴセンシ」、
それから村上春樹の短編風の、ありふれた日常と空想がミックスしたような
「名前のないトースターの話のつづき」。

印象に残った面白い表現をすこし。
 『どうやら相談にのってもらいたくなるのは、「乗り込むとき」と「降りるとき」に限り、
 乗るにしても降りるにしても、誰かに背中を押してもらいたいようである。』

 『私は記憶はパイ皮に似ていると考えています。
 ひとつひとつは薄い被膜のようなもので、最初は触れるか触れないかという
 わずかな接触で重なり合っています。』

 『僕はいまこのノートに自分のことをいろいろ書こうと思っている。音楽をつくるみたいに。』


薄い本なんだけど、読了にけっこう時間がかかってしまった。
ちょっと最近の私の頭は「長編ミステリー」モードになっているので
またじっくり読みなおして吉田篤弘ワールドに入り込んでみたいと思います。

■目次■
・ガリヴァーの帽子
・イヤリング
・ものすごく手のふるえるギャルソンの話
・かくかく、しかじか - あるいは、彗星を見るということ
・ゴセンシ
・御両人、鰻川下り
・名前のないトースターの話のつづき
・孔雀パイ
・ロイス・レーン相談所の話のつづき - あとがきにかえて

ガリヴァーの帽子/吉田篤弘  204P
2013年9月発行
お気に入り度:★★★☆☆
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